2012年6月29日金曜日

きづきあきら+サトウナンキ『うそつきパラドクス』9巻・10巻(完結)

どうにも終わり方が納得しかねたのですが、もう一度読み返してみると腑に落ちる部分が出てきたりして、全巻読み直す必要を感じています。
幸いにもこの作品は全巻手元にありますから(買い揃えた期間が上京を挟まないという意味です)、それができる環境にはあるんですよね。

改めてすべて読み通してみると変わるかもしれないという前提のもとで現時点での印象を書くとすれば、当初読み切りの予定だったというのが納得できるというか、当初のコンセプトである、一般的な「浮気」(と「遠距離」)が描かれていた連載前半期のほうが胸に入ってきやすかったかな、と。
「共有」あたりから、読者である自分の目線の置き方が変わってしまった気がして。
ざっくり言ってしまえば、神目線から追従者へ、でしょうか。

……読んだそばからストーリーを忘れるような人間ですから、ここであまり分析的なことを書くのは妥当ではない気がしますね。
腕力(最終巻で「ポエム」と形容されているものとあまり外れません)でここまでもってこられた、もっていかれた感もありますが、そのようなところまで含めて、好きな作品でした。

次回作も楽しみです。
今日はここまで。

高橋しん『最終兵器彼女』と例のコピペ

現実から逃げたくて、かつ心を痛めつけたい気分になったので、高橋しん『最終兵器彼女』を一気読みしました。
高校の頃に1冊ずつ集めて読んで、大学入って上京してもう一度買い直して。でも買い直したこと自体がネタに近い感じだったので、まとめて読み直したかは微妙で。多分気になるシーンをちょこちょこさらったりしただけで、そういえば委員会室とかに置きっぱにしてた時期も長かった。

読み直してみてちょっと新鮮だったのが、ネット界隈ではコピペでちょっと有名なこの一節。
ネタバレの要素がありますが、そこまで強くありません。逆に、この記事を通して、ちょっと読んでみたいと思っていただければ嬉しいです

実を言うと地球はもうだめです。
突然こんなこと言ってごめんね。
でも本当です。

2、3日後にものすごく
赤い朝焼けがあります。

それが終わりの合図です。
程なく大きめの地震が来るので
気をつけて。
それがやんだら、少しだけ間をおいて
終わりがきます。
【秀逸】実を言うと○○はもうだめなんです。改変ネタまとめ - NAVER まとめ

クライマックスの部分、ちせからシュウジへの「手紙」の一節なんですが……
これ、最初の3行と残りが、それぞれ別の部分から抜き取られています。
(すっかりこのようなものとして記憶してしまっていました。既読であっても同様のひとが多いんじゃないかと思ったのが、この記事を書くに至った動機です)

 実際にはこのふたつの部分の間には、2ページ半にわたってちせからの言葉が続きます。
「種明かし」と「決意」、そして「最後のお願い」とだけ、まとめておきましょうか。
 それぞれの頭に(悲壮な)とか(悲哀に満ちた)とか付け加えても、しっくり来ますね。

また、「終わりがきます。」の直後にも、もう少しだけ言葉が続きます。
最後の別れの言葉、そして「すき。」のひと言の、その前に。
きっとここが、本当に重要なことばだったんじゃないかな、と。

ごめんなさい。
あたりまえに苦しくって、痛くって
つらい、終わりかたです。
——『最終兵器彼女』7巻、p.208


こんな大事な部分を落とすなんて作品に対する冒涜だ、とかここで言いたいわけではないです。
そもそもサイカノの一節であることを示さず、寝覚めのちょっと悪い都市伝説的なコピペとして流布したわけで、だからこそ改変ネタも生まれて広まって、な側面もあると思います。
だからコピペはクソ、とまとめることもできましょうし、またそれが妥当な感覚であるとも言えるでしょうが、しかしこうなったのはことばが持つ力があまりにも真っ直ぐに強かったからと言うこともでき、作品のファンとしては喜ぶこともできる事態です。

ただ、僕みたいに、一度読んだときの記憶がこのコピペによって再構成されてしまっては残念だな、と。記憶の中にしまわずに、もう一度だけ読み返してほしいな、と。
(メッセージが相手にする層がニッチすぎますねww)

落とされたこの部分は、この作品が描く「世界」のすがたを凝縮したものだと思います。
「あたりまえに苦しくって、痛くって、つらい、終わりかた」。
そしてちせの口癖である「ごめんなさい」が、あまりにも明白に「世界」とちせの位置関係を言い当てていて。
これを落としたからこそ、コピペがコピペたり得たような気もしますね。

また、省かれた2ページ半においても非常に多くのことが語られていますが、その中でシュウジとちせの関係、そして作品全体を端的に表している一行だけ、ここでは引いて終わりにします。

この星が終わるときに、この場所に来て下さい。
——『最終兵器彼女』7巻、p.208


(漢字とかなのバランスが絶妙だ。)

今日はここまで。